摘要 |
本研究は、日本統治下台湾に24年間存続していた台北高等学校の学生文芸に関する研究の一環で、日本人卒業生がかつて自分達が住んだ「台北」という空間をどのようにイメージしたのかを考察するものである。考察に主に使用するのは、12年(1934-1946年)にわたり台北に居住し、台北市立樺山尋常小学校、台北州立台北第二中学校(以下「台北二中」と略称)を経て、台北高等学校を1943年に卒業した田中一郎が日本帰国後に自費出版した、27ページの小冊子『絵本 台北の歌』である。本研究ではまず、この冊子に収められている21編の小作品(詩・文・版画で構成)から著者が構築した1930-40年代の台北イメージを4方向――①牧歌的、②都会性、③生命力、④台湾性に分類。次に、田中の学校体験や文化人との交流をもとに、こうしたイメージがどのように形成されたのかその背景を分析。最後に、作品に一貫して流れるノスタルジーの背景を田中の戦後の生活環境(引揚体験・同窓生の交流)から考察した。かつて台北に居住していた在台日本人が、どのように台北という空間を記憶し、それが彼らの人生にどのような意義を与えているのかを、台北高等学校の日本人卒業生を例に議論していく。 |